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那覇地方裁判所 昭和49年(行ウ)4号 判決 1975年10月04日

当事者の表示は別紙当事者目録記載のとおり

主文

本件訴はいずれもこれを却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者双方の求めた裁判

一、原告ら

被告が訴外沖繩三菱開発株式会社に対し、昭和四七年五月九日、指令建第三〇九号をもつてなした沖繩県中頭郡与那城村平安座および宮城島桃原地先間の海面213万6347.18平方メートルの公有水面の埋立を免許する旨の処分が無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

(本案前の申立)

原告らの訴を却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案について)

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者双方の主張

一、原告らの請求原因

(一)  (本件埋立免許処分)

被告は、訴外沖繩三菱開発株式会社(以下訴外沖繩三菱という)に対し昭和四七年五月九日指令建第三〇九号をもつて、沖繩県中頭郡与那城村平安座および宮城島桃原地先間の海面213万6347.18平方メートルの公有水面(以下本件公有水面という)の埋立免許を与えた。(以下本件埋立免許処分という)。

(二)  (原告らの権利)

訴外与那城村漁業協同組合(以下訴外与那城漁協という)および訴外勝連村漁業組合(以下訴外勝連漁協という)の両漁協は、被告より昭和四四年一一月一日付共第一六号をもつて本件公有水面を含む漁区において第一ないし第三種の各共同漁業を内容とする共同漁業権の設定を受け、別紙当事者目録記載の(一)の原告らは、訴外与那城漁協の、同目録記載の(二)の原告らは、訴外勝連漁協の組合員であり、それぞれその所属漁協の定める漁業権行使規則により、本件公有水面を含む海域において漁業を営んでいる。

(三)  (本件埋立免許処分の違法性)

公有水面の埋立は、埋立水面における漁業権の消滅をもたらすので、公有水面埋立法四条三項一号により漁業権者の埋立についての同意を要し、右同意に際しては、水産業協同組合法五〇条四号により、漁業権の消滅について総組合員の半数以上が出席し、その三分の二以上の多数による議決のあることを必要とするが、訴外与那城漁協および訴外勝連漁協においては右特別決議はおろか、漁業権放棄の議案の提出すらなされておらず、また、漁業法八条三項は漁業協同組合が漁業権行使規則を変更せんとするときには、当該漁業権の内容である第一種漁業を営む組合員のうち、関係地区内に住所を有する者の三分の二以上の書面による同意を必要としているが、右規定は漁業権放棄の場合にもその適用があると解すべきであるのに、訴外与那城漁協および訴外勝連漁協においては右書面による同意をとつていない。

従つて、本件埋立免許処分は無効というべきである。

(四)  よつて原告らは被告に対し本件埋立免許処分の無効確認を求める。

二、訴訟要件に関する当事者双方の主張

(一)  被告

本件公有水面はすでに訴外沖繩三菱により埋立工事が竣工し、その埋立の規模、構造からみて本件埋立地を公有水面の原状に復することは社会的、経済的にみて不可能であるから、本件公有水面埋立免許の無効確認を求める本件訴は法律上の利益を欠き不適法である。

また、本件訴は、被告沖繩県知事を相手として本件公有水面埋立免許の無効確認を求めるものであり、その勝訴判決は埋立権者である訴外沖繩三菱を拘束するものではないから、右判決によつて訴外沖繩三菱が埋立地の原状回復義務を負うことはない。したがつて、本訴は埋立地の原状回復が可能であるか否かに拘らず訴の利益がないというべきである。

(二)  原告ら

本件埋立地を公有水面に原状回復させることは社会通念上不可能ではない。

なお、本件訴につき勝訴判決があれば公有水面埋立法三五条一項により、埋立権者訴外沖繩三菱が原状回復義務を負うに至り、ただ例外として原状回復が不可能な場合には被告沖繩県知事が、判決後において原状回復義務を免除しうるに過ぎないから、原状回復が不可能であるとの理由で本件訴の利益が失われるものではない。

第三  証拠関係<略>

理由

一原告らの本件公有水面埋立免許処分の無効確認の訴えにつき訴の利益があるか否かにつき考えるに、もともと、行政処分の無効確認の訴えは、当該処分が無効であつて原告の法的地位に処分による変動のないことを明らかにしそれによつて処分が表面的に有効視されることから生ずる原告の地位の不安、危険を排除することを目的とするものであるからこのような不安、危険の排除がもはや不可能または無意味となつたときは、その訴えの利益は失われると解すべきであるが、このことは県知事の公有水面埋立免許処分の無効確認を求める訴えについてもこの埋立工事が竣工しその原状回復が法律上不可能か若しくは著しく困難であつて、知事においても公有水面埋立法三五条所定の原状回復義務を免除する義務を負う場合にはもはや右訴によつて同海面において漁業を営むものの地位の回復は不可能であるから、右漁業を営む者よりの右処分の無効確認を求める訴えの利益は消滅したものと解するのが相当である。

ところで、原告らは、原状回復が不可能な場合であつても被告知事が公有水面埋立法三五条一項により本件訴に対する勝訴判決確定後において埋立権者に対し原状回復義務を免除し得るにすぎないものであるから原状回復の可能性の有無によつて本件訴えの利益が失われるものではないと主張するが、しかしながら、公有水面埋立法三五条一項の規定をもつて原状回復が法律上不可能か著しく困難である場合についてまで県知事に埋立権者に対し埋立地の原状回復を命じる権限を与えたものとまで解し難く、むしろかかる場合には県知事としては同法条所定の原状回復義務を免除する義務を負うと解するのが相当であるから、右原告らの主張は採用できない。

二そこで以下本件公有水面の埋立の現状およびその原状回復が法律上不可能であるか若しくは困難であるか否かにつき検討する。

(一)  <証拠>によると次の事実を認めることができ右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  本件公有水面埋立免許の申請は昭和四六年五月一日付で埋立予定地の与那城村村長から琉球政府行政主席宛に提出され、同月一一日同政府に受付けられたが、同年一一月二五日、与那城村議会において右申請人を訴外沖繩三菱に変更する旨の決議がなされ、昭和四七年三月三一日に右与那城村村長と訴外沖繩三菱から琉球政府宛に右申請の申請人の変更が提出され、同時に右訴外沖繩三菱から琉球政府に対し右埋立予定の公有水面に共同漁業権を有する訴外与那城漁協と訴外勝連漁協の本件公有水面の埋立に同意する旨の右訴外沖繩三菱宛文書が提出された。

しかして、琉球政府は、右申請に対して公有水面埋立法(一九六二年立法第七九号)三条(昭和四八年法律第八四号による改正前の公有水面埋立法(大正九年法律第五九号)三条の規定と同じ)に基づき、与那城村議会に右申請についての意見を求めたところ、右村議会は全員一致で異議ない旨の決議をし、同村長より同年五月二日その旨の回答がなされたので、同年五月九日指令建第三〇九号をもつて訴外沖繩三菱に対し本件公有水面埋立を免許する旨の免許書を交付した。

そこで訴外沖繩三菱は同年七月一五日前記両漁協との間で本件公有水面埋立によつて漁業者の被る損失補償金として合計金一億二二〇〇万円を支払う旨の契約をし、同年一〇月二三日右金員を支払つたうえ、同年一〇月二五日被告の同年九月三〇日付公有水面実施設計認可に付された条件に従つて埋立工事に着工し、約一年七月をかけ昭和四九年四月三〇日右工事を完了したこと、訴外沖繩三菱は昭和四九年五月二〇日被告に対し現行の公有水面埋立法二二条(沖繩の復帰に伴う特別措置に関する法律五三条、沖繩の復帰に伴う建設省関係法令の適用の特別措置等に関する政令第七六条)に基づき竣功認可の申請をしていること。

2  その埋立地の現況は別紙図面(一)および(二)のとおりであり、その埋立工事の面積、内容は次のとおりである。

(1) 埋立面積

212万1566.75平方メートル

埋立地用途別内訳

事業用地

197万6071.37平方メートル

護岸敷

2万1605.88平方メートル

道路敷

2万6801.66平方メートル

緑地

9万3264.02平方メートル

漁港関連用地

3823.82平方メートル

(2) 工事内容

(A) 埋立巾 平均約一八〇〇メートル

(B) 埋立地仕上り高

埋立地盤高 プラス四メートル

高潮高 プラス2.4メートル

護岸高 A護岸プラス6.3メートル

B護岸プラス六メートル

(C) 浚渫土量

約八二四万立法メートル

(D) 護岸長

A護岸 一七五〇メートル

B護岸 一七五一メートル

(E) 道路

巾11.25メートル(うち車道巾7.5メートル)

長さ二四五〇メートル

(F) 緑地

A護岸A水路沿い

巾三〇メートル

長さ二二二八メートル

B水路沿い

巾三六メートル

長さ八五〇メートル

(G) 水路

A水路 巾六〇メートル

長さ四一六メートル

B水路 巾三六メートル

長さ八五〇メートル

(H) 橋梁

巾11.25メートル

長さ一五メートル

3  前記埋立地の一部である前記公共用道路は宮城島と平安座島を結んでおり事実上公衆の利用に供され、また本件埋立の関連工事として建設された前記漁港の諸設備も現実に地元漁民らに利用されていること、また、仮に本件公有水面の埋立地を原状に回復するとすればその工事による土砂のため周辺海域が著しく汚染されること。

(二)  右各事実によると、本件埋立地を海面に回復することは必ずしも物理的に不可能とはいえないが、しかし、その規模、構造、現在の利用状況、原状回復によつて予測される社会的、経済的損失および周辺海域の汚染度などからみて社会通念に照らし法律上原状回復が著しく困難であつて知事としては埋立権者に対して原状回復義務を免除しなければならない場合に該当すると認められるから、もはや本件訴によつて、本件埋立地の原状回復を求めることは不可能であり、したがつて、原告らの本件公有水面の埋立免許処分の無効確認を求める訴えは利益がないといわざるを得ない。

三よつて原告らの本件訴えはいずれもその利益を欠く不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条本文を適用して主文のとおり判決する。

(山口和男 喜如嘉貢 仲宗根一郎)

当事者目録

(一)

沖繩県中頭郡与那城村字照間九三四番地の一

原告 花城清善外七名

(二)

沖繩県中頭郡勝連村字浜一〇一番地

右同 西玉栄弘外三九名

右原告ら四八名訴訟代理人弁護士 池宮城紀夫外三名

被告 沖繩県知事

屋良朝苗

右訴訟代理人弁護士 真喜屋実男外二名

右指定代理人 安里長徳外九名

図面(一)、(二)<省略>

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